句会の心得 −楽しい俳句ライフのために− 第四回 句会を開催する【佐藤文香さん】




新型コロナウイルスの影響で、中止になってしまった句会も多くあると聞いています。たしかに句会は、2〜3時間程度手の届く範囲で会話します。あまり換気のできない環境という場合もあり、手でつまむおやつがあったりして、とくに高齢者の多い結社の句会などは、中止もやむを得ないかもしれません。私が関わっている句会は、除菌シートや除菌スプレーを活用したり、会場を変更したり、任意参加にするなどして決行していますが、どうするのがベターかは、今後の状況次第としか言えませんね。

 

さて、句会を開催するためには、

 

  • 会場
  • 参加者
  • 参加者による投句
  • 短冊や清記用紙など句会グッズ

 

が必要です。逆に言えば、これさえ揃えば誰でも句会を開催することができます。何回か句会に参加して雰囲気をつかめば、会の運営や司会をすることが得意な人は、自分でも句会をやってみよう、と思うのではないでしょうか。そんなあなたに、今回は句会開催のちょっとしたコツと注意点をお伝えします。

会場の予約と参加者への連絡

上記にもあるように、句会にまず必要なのは、場所と人です。作品を匿名でリスト化し、選び合う面白さが感じられるには、最低でも4名は必要です。小規模の句会の適正人数は、6〜10名ではないかと思います。初めて句会を開催するなら、まずは6~10名になるよう声をかけてみましょう。

場所については、自宅開催という場合を除いて、カフェでやるにしても、会議室をつかうにしても、予約が必要です。句会には2時間程度かかるので、ゆっくり滞在しても差し支えない場所を選びましょう。ファミレスなども手ではありますが、まわりがガヤガヤして声が聞き取りにくいと、点盛のときに難儀します。よって、

  • 地域の公民館(参加者の誰かがその地区在住)
  • 部屋を貸し切れるカフェや会議室

がおすすめです。ルノアールのマイスペースSpaceeに登録しておくと、開催したい場所に応じて会場を予約できます。気の知れた仲間同士であったり、交流の手段としての句会であったりすれば、居酒屋で飲みながらというのも楽しいですね。その句会の規模や、参加者のこころざしによって、会場の種類を調整してください。参加者が集まりやすい場所を選び、初回は住所や地図を用意するなど気を配りましょう。

日時と場所のほかに、兼題、会費、参加者の名前を発表しておきます。事前投句の場合はあらかじめ期日を設定し、必要ならリマインドメールも送ります。参加者同士が全員友人という場合ではないなら、連絡はメールのBCCの機能を使って、アドレスが他の参加者に漏れないようにしてください。

ほかの句会で出会った人を誘う

自分が一参加者として出席している句会で、「この人に自分の句会に来てほしいな」という人がいれば誘ってみましょう。ただし、相手にも事情がありますから、必ずしもあなたの句会に来たいとは限りません。もしよかったら、と声をかけてみて、相手がぜひ行きたいということであれば連絡先を交換します。その際TwitterのDMやLINEなどではなく、メールアドレスを交換することをおすすめします。句会は遊びとはいえ、大人同士が約束して会うことであり、会場費などお金も発生することが多いですので、トラブルを避けるためにもきちんとした文面で連絡のメールを送ることが望ましいです。句会のなかでどんなにカジュアルに話せたとしても、俳句を介した仲間であることを忘れないでください。特に、誘いたい相手よりあなたが年上であったり、自分が男性で誘いたい相手が女性という場合には、相手がいつでも断れるよう配慮しましょう。1回参加してみたけれど、なんとなく合わなかったという場合もありますから、一度目はお試し回にするのがいいと思います。

俳句以外の友達を句会に誘う

俳句未経験者の友人で、少し俳句に興味があるという人を、句会に誘ってみるのもいいでしょう。そのときに大事なのは、他の参加者とその人との俳句の知識レベルの差を、双方が理解しているということです。ハイレベルな句会を希望する参加者が、句会のシステムを手取り足取り説明せねばならなかったり、やさしいコメントを求める初心者が「これはダメでしょ」と言われてやめてしまったりすることのないよう気をつけます。新しい参加者によって、新鮮な空気がもたらされることは大いにありますから、配慮し合って進行できるようにするといいと思います。

初心者向け・未経験者向けと銘打って、句会を開催する手もあります。足並みが揃うという点においては、参加者の精神的な負担が小さくなり、安心して俳句に踏み出すことができるように見えるかもしれませんが、実は句会は、初心者同士でやるには向いていないシステムです。ご存じの通り多くの句会は互選(参加者同士が互いに選び合う)です。俳句作品の勘どころを知らない者同士で句会を行うと、俳句的に見れば全然面白くない句に点が集まってしまうことが、しばしばあるのです。俳句を作り選び合い、コメントし合うという、句会のシステムを楽しむという意味では初心者同士の句会もあっていいと思いますが、本当の意味で“俳句”を楽しむことの前の段階に位置づけられるといえます。もしあなたが俳句が好きなら、どんな句会であっても面白い句が面白いことをないがしろにしたくはないですよね。その場にあなた一人しか俳句をやっている人がいないとき、あなたが司会をしながら、圧倒的に点を稼いだ作品がどうして面白くないか、自分だけが点を入れた句がどれだけ素晴らしいかを説明するのは結構大変です。

とはいえ、初めて句会を自分で行うというときに、あなたが先生をやるのはやめておいた方がいいでしょう。相対的に見れば、未経験者よりあなたの方が俳句を知っているかもしれませんが、俳句全体で見れば、あなたはまだ俳句初心者だからです。書道初めての人だからといって、書道を習い出して2年目の人が教えられないのと同じで、初心者が未経験者に教えられるのはせいぜい、筆の洗い方くらいです。人から教えてほしいと言われるまでは、自分から教える立場にまわるのは避けた方がいいと思います(と、書いている私に対しても、きっと「お前には先生はまだはやい」と思っている人がいるでしょう。教えるということは、そのジャンルすべての先輩に見られている自覚を持つということでもあります)。

憧れの俳人を句会に招く

句会を運営したいが自分一人の力では難しい、そういうときは、先輩の力を借りましょう。作品も選評も素晴らしく尊敬できるという人を、ゲストとしてお招きします。俳句を職業としている人でなければ、ご好意で参加してくださる場合もあるかもしれません(その場合も、会場費と飲食費は不要にするなどの配慮を忘れずに)。若手の気鋭作家やカルチャー講座で教えたりしているという方であれば、参加者一人あたり1000円〜2000円程度の謝礼が妥当かなと思います(参加人数によってはその限りではありません)。結社の主宰級だと、そもそも忙しくてお願いするのは難しいでしょう。

地方に住んでいて、なかなかそういう作家の先輩がいないという人は、定期的には難しいと思いますが、イベントとしてどなたかをお呼びすることも視野に入れるといいかもしれません。その場合、まずは一度その俳人の句会や講演まで足を運んで、終わったあとに、どうして来てほしいか、どのようなことをしてほしいかを伝えます。当然のことながら、その方の句集や著作があれば読んでからにしましょう。相手が「ぜひ」ということであれば、連絡先をおうかがいし、日程調整に入ります。交通費・宿泊費と指導料(規模によりますが最低でも1万円。二次会にもお呼びするなら飲食費)をお支払いすれば、地方を吟行できる機会を喜ぶ俳人も少なからずいます。

単発イベントではなく継続的にお願いしたいという場合、もしその尊敬する俳人がどこかの結社に入っているなら、基本的にはまずその結社に入るのがいいと思います。大きい結社であれば、地方での句会を開催していることもありますので、まずその句会の幹事さんに連絡して参加してみましょう。主宰でなくても地方の句会に参加することもあり得ますし、1年に1回全国大会がある結社もあり、そういったところで憧れの人と句会をともにしてみて、それからお招きするという流れがいいと思います。頼まれる側としても、同じ結社の会員であれば、気軽に引き受けてくださることもあるでしょう。「あの結社の主宰が作家として好きだけど、結社には入りたくない」という人もいると思いますが、その作家はそういう人たちがいることもわかった上で、結社の主宰になることを選んでいます。素晴らしい作家は自分一人のものではありません。

どなたかにいらしていただけることになったら、運営者や司会者が、句会参加者のみなさんに紹介することも大切です。句集や著作があるならあらかじめ参加者に目を通してもらっておくとか、初心者向けの句会ならプロフィールと代表作を配布するとかするといいと思います。新刊があれば当日販売できるようにすると喜ばれます。自分は司会や運営に徹し、俳句についてのコメントをその方に任せることで、会としての進行もスムーズになります。大事なのは、お呼びする相手に対して、参加者全員が敬意を持って接することです。

先輩や憧れの俳人を呼ぶのが難しい場合は、自分より知識のある俳句友達でもいいので呼びましょう。自分の意見が相対化されることが必要だからです。それも難しいという場合には、いろいろな本を読んでおきます。何かについて聞かれたときに、自分の意見だけでなく、ほかの作家が今までそれについてどう述べてきたかを頼りにしましょう。他の句会で先生がこう言っていた、というのをいかによく覚えていたとしても、それは一句ごとの具体的な解釈やハウツーであり、根本的な考え方が身についているとは言えません。どんなときでも、自分より俳句のことをよく考え、俳句のことをよく知っている人から学ぶ姿勢が大切です。

句会の運営・司会のコツ

司会はなんといっても、全員に聞き取りやすい声で話すことが一番です。私が長くいろいろな句会で司会をやってきたのは、参加者のなかに自分より声が通る人が少ないからというのも大きな理由です。そして、参加者が均等に話せる場づくりにつとめます。慣れてきたら、この句についてはこの人の意見を聞きたいな、と思う人を当てることができるようになってきます。運営は参加者の名前と、どういう人かを把握しておき、何かあったときに責任が取れるようにしておきます。メールはずぼらだけど声がいい人は司会、あがり症だがマメに連絡できる人は連絡係、店の予約と割り勘が得意な人は二次会担当など、はじめから全部一人でやろうとせず、仲間と協力して分担するのがいいですね。平日の夜の句会など運営者が遅れる可能性がある場合は、リスク回避の観点から、はじめに仕切ってもらえる人を決めておくのもいいでしょう。

句会企画者とお客さんになってしまうと、遠慮や不満が出てきます。句会に来る人ひとりひとりが、その場をつくり楽しもうと思いながら、お互いを思いやることができるよう、そういった環境づくりをしていくのが、句会の運営・司会の仕事です。

おまけ*おやつは必要ですか?

お店での句会に持ち込みは厳禁ですが、公民館や貸しスペース、自宅開催の句会なら、参加者分のおやつを用意してもよいですね。一人分ずつ小分けになっていて持ち帰りも可能であること、食べるときに手が汚れないことが、よいおやつの条件です。ウエットティッシュも用意しておくといいと思います。

初めて参加する句会であれば、基本的におやつを持参する必要はありません。句会によってはおやつ配り合戦になることもありますが、おやつを持ってきてくれる人より、素晴らしい俳句を書いてきてくれる人やいい選評を言ってくれる人の方が、句会への貢献度は高いです。

 

次回は、さらに楽しい俳句ライフへのいざないです。

 

句会の心得 −楽しい俳句ライフのために−

 

プロフィール
佐藤文香 さとう・あやか
1985年兵庫県神戸市生まれ。中学一年生のとき、夏井いつき氏の俳句の授業で俳句にハマり、以来いろいろな俳句の賞に応募してきた。
第二回芝不器男俳句新人賞対馬康子奨励賞、第十回宗左近俳句大賞、第一回円錐新鋭作品賞白桃賞(http://ooburoshiki.com/haikuensui/2017/04/29/ayaka_sato_73/)。句集『海藻標本』、『君に目があり見開かれ』。詩集『新しい音楽をおしえて』、掌編小説集『そんなことよりキスだった』。編著『俳句を遊べ!』、『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』など。

公式サイト:television – 佐藤文香 official web site